メランコリックな魅力

存在の耐えられない軽さ、より、ドンファンであるトマーシュの、長年連れ添った恋人であるテレザが彼の元から立ち去った後の話である。

奇妙なメランコリックな魅力は彼を落ち着かせる。

「勘定を済ますとレストランから外へ出た。そしてますます美しいものとなりつつあったメランコリーの気分に満たされて通りを歩きまわった。テレザとは七年一緒に過ごした。そして今、その年月は暮らしたときより思い出の中でいっそう美しいことに気がついた。

 

彼とテレザとの愛は美しくあったが、世話のやけるものであった。耐えず何かをかくし、装い、偽り、改め、彼女をご機嫌にさせておき、落ち着かせ、絶えず愛を示し、彼女の嫉妬、彼女の苦しみ、彼女の夢により告訴され、有罪と感じ、正当性を証明し、謝らなけばならなかった。この苦労が今や消え去り、美しさが残った。」

 

彼女と別れた時は、悲しいものは確かにあったが、何かから解放されたように感じたのも事実である。

もしかしたら、好きではなくなっていたのかもしれない。

それはわからないけれど、その当時はいろいろと辛い時期で、彼女の素直すぎる言動が重荷となっていたのは事実だった。

 

彼女をご機嫌にさせておき、寝付かせ、嫌いな電話をかけ、楽しそうに話を聞いてやり、下手な演技は告訴され、有罪と感じ、いつだって役者としての自分を作らなければならなかった。

 

その苦労はなくなり、美しかった思い出だけが、僕の中に残ったのである。